[HOME]
ヨーロッパ日記

年月

   
   
   

Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
          


■ 4月 8日    ( 上田 ) 
夜の生配信は、滝本晃司さんをお招きして、ドロステの劇伴について語っていただく夜だった。(アーカイブはこちら

小学生のころ、バンド「たま」に出会って魂をぬすまれ、ファンクラブに入った。「たま」は4人が4人とも作詞作曲して歌うビートルズのようなバンドで、滝本さんの曲はなかでもコード進行や歌詞が複雑で、小学生だったぼくには難しかったのだけど、中学生くらいになると、これはひどく素晴らしいものだ、とわかるようになった。ギターを弾くようになったのもあるとおもう。たまのほかの方の曲や、たいていのバンドの曲はコードが弾けるようになっても、滝本さんの曲だけは全然弾けないのだった。耳コピしてコードをすこしずつとってゆき(インターネットなどなかったですからね)、そのたび「ええーここで何でそんなへんてこなコードに行くの!?」「ここでメジャーからマイナーへ!?」「このコードどうやって押さえるの? どうやってもそんな音鳴らないんだけど!」みたいなことの連続だった。たまの中でギターのうまい(べらぼうに!)知久さんが、滝本さんのコード進行を評して「変態だぞありゃ」と会報に書かれていたのが印象的だった。複雑怪奇なコード進行の中に美しさやなつかしさがふと走るのは魔法としかいいようがない。

そんな滝本さんに、大人になって劇中曲をお願いできるようなったことの光栄さは、もうたとえようもないのだけど、そういう魔法コードをもつ滝本さんなので(コードだけじゃないですが)、曲をお願いする場面はいつも、玉虫色の場面だ。楽しいシーンに明るい曲をつける、とか、悲しいシーンにマイナーな曲をつける、とか、そういうことではなく。悲しくて楽しくて切なくて間抜けな場面、とか。陰鬱なんだけど底抜けに明るい場面、とか。そういうシーンにこそ値打ちがあると思っていて、そこには曲などつけないほうがいいんだけど、滝本さんの楽曲だけは別で。そういうシーンなんですけどっていって滝本さんにお願いする。そうすると滝本さんは「うん、まあ、やってみるよ」とすこし困ったような返事をされたあと、おまちゃんさんとスタジオで錬金術をされ、できた曲は、矛盾した感情とうつくしさを見事にはらんでいる。「建てましにつぐ建てましポルカ」のラストの長大な曲は、もの悲しくて明るくて、圧巻だった。書くのにとても苦しんだあの劇は、あの曲に終わらせていただいたようなものでした。

「出てこようとしてるトロンプルイユ」のときは、「ダダ」という、アルバム「空色」の最後のほうに入っている大名曲を使わせていただいた。これを劇のラストにしたらとんでもなくぐっとくる、それだけで大成功まちがいなしのような曲だったので、おこがましくも、それをオープニングに使わせてもらうことにした。ひとの一生の終わりのその先、を見たいような劇だったから。そういうことをお伝えし、稽古場で稽古をごらんいただき、滝本さんがくださったラストの曲は、終わりの先のすべての始まり、みたいな、ごきげんだと思ったら突然影がさし、やがて悲しいのに底抜けにあかるいような曲と演奏だった。「つづくことつづくとこ」。もともとあった曲なのだけど、この劇にあまりにも合うのでと、提案くださった。ああ、これで申し分ないラストだ、と腑に落ちて、劇の成功を喜んでいたら、そのあと「もう一曲できたんだけど」っていって、「朝ははらぺこ」という、うってかわって静かな、震えるほどの名曲を送ってこられた。何年かぶりに曲を書いたよ、っておっしゃってた。ちょっとまってくださいよ矛盾ですよラストの曲が2曲あるんなんて、と究極みたいな二択に苦しみながら、結局、カーテンコールで乗り換えて、2曲、使わせていただくことにした。「朝ははらぺこ」は、ゴッホがゴーギャンと共同生活をはじめるときに、ゴッホがゴーギャンのために椅子を買ってあげて、生活をたのしみにしている、そのことが歌われた、すさまじい名曲です。コードの複雑さはなく、なのにイントロから情感があまりにふかく、そして出だしの詞とメロディがもう完璧すぎるんです。

(サントラ、地球レコードで売ってますからぜひとも。こちら

僕にとってそんな滝本さんなので、生配信など正気でできるわけがなく、まあやったのだけど、僕の言葉などいらない至上の時間となりました。ギターをつま弾き始められたときは「やばいやばいやばい!」と中学生のぼくがうるさかった。淳太さんが丁寧に構成と進行してくれて助かりました。「ドロステのはてで僕ら」は、淳太さんが監督で、滝本さんに音楽をお願いしたいといったのも淳太さん。なので、どんなやりとりが交わされたのか僕は知らない。でもできたものはやはり素晴らしく滝本さんクオリティでありました。嫉妬したし、ふたりの話をきけてよかった。まだまだ聞けてない物語があるんだろう。

「ドロステ」ブルーレイには、滝本さんのサントラも入ってます。宣伝かよと思われるでしょうが、宣伝です。CDのために新たに曲を構成してくださったそうです。こちら

長くお読みくださりありがとうございました。きょうは「盗賊団企画(仮)」にかかっていた一日。銀行強盗のことをしばらく前から調べているんだけど、資料がぜんぜんない。銀行強盗クロニクル、みたいな本、ありそうでないんですね。銀行強盗を扱った映画はたくさんあるんだけど。
4/ 9(Fri) 02:50 No(13380)


拡張子はhtmに変更して下さい
No.  pass 


Annecho by Tacky's Room