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(左:石田 右:葛西)

舞台装置と人間が有機的に関わるような芝居」 を信条とするヨー ロッパ企画。その舞台では美術、照明、 映像などのスタッフワーク が、脚本や役者と同等──時にはそれ以上に、 重要な役割を果たしてい るのです。そして『ロベルトの操縦』 では、 どんな舞台が立ち上がることになるか? 今回参加している各スタッフに、それぞれの仕事の内容や心得、 ヨ ーロッパ企画にまつわる裏話などを、ヨーロッパの役者たちが、深く鋭く聞き出します。

 

■照明が印象に残るより「作品が良かった」と言われる方がいい(葛西)

 

石田 葛西さんの、ヨーロッパ企画の初めての仕事は何でしたっけ?

葛西 初めて顔を合わせたのは、立誠のイベント(※註1)ですね。本公演だと『あんなに優しかったゴーレム』( 08 年)だから、参加したのはつい最近。今いるスタッフの中では、一番新参者なんじゃないかな。

石田 僕はもう、クセノス(※註2)時代から知ってましたよ。葛西さんのことは。

葛西 すごいところを知ってるね(笑)。

石田 舞台は観てないんですけどね(一同笑)。葛西さんは、僕にとっては「打ち上げの席でだらしなく酔っ払う人」というイメージしかなくて(笑)、真面目に仕事の話を聞くのはこれが初めてなんですけど、そもそもなんで照明家になったんですか?

葛西 最初は、役者から演劇の世界に入ったんですよね。僕、児童劇団で7歳から芝居をやってたんです。

石田 ええっ !! それは初耳だなあ。

葛西 実は今年で、芸歴 30 年ぐらいなんですよ。それで大学でも演劇を専攻していたんだけど、単位を取るためには、自力で公演を打たないといけなかったんです。そうなると芝居だけでなく、スタッフワークも自分たちでやらなくちゃいけないわけで。

石田 あー、学生だとそうですよね。僕も学生劇団の時はスタッフやってましたから。

葛西 だから役者をしながら、照明も舞台監督もやったりしてたんですよ。その中でまあ、照明が面白そうだなと思ったのが、始まりといえば始まりかな。

石田 で、照明の面白さに目覚めて、そのまま?

葛西 いや、卒業してもしばらくは、役者や 演出もしてました。クセノスの公演だったり、オーディションも受けたりして。『月の岬』(註3)にも出てたんですよ。

石田 …今、軽く自慢しましたよね(笑)。

葛西 ただ、照明の方が「うちの舞台でやりませんか」と、声をかけられる機会が多かったんですよねえ。それで「これは仕事になるのでは?」と思い始めて。基本的にお芝居が好きだから、「関われるなら何でも」って感じでやってきて、気がついたらこれだけで食べられるぐらいになっていたという。

石田 すごいですよね。どんな照明が得意だとか、苦手だとかはありますか?

葛西 得意とか不得意じゃないけど、音楽きっかけでライトがバーン! と入るような派手な舞台よりも、全体的に照明があまり変化しないような舞台に呼ばれることが多いですね。ヨーロッパ企画は特にそうだけど、固定した明かりでそのまま進む、みたいな作品が多い。

石田 あー、うちの場合はホント、そうですよね。

葛西 でも実は、そういう普通の雰囲気の照明の方が、丁寧に人に当てなくちゃいけないのに、セットがしっかり建ってて壁やら屋根やらいろいろあって結構苦労するんですよ。でも観てる人からは「明かり、あんまり変わらないよね。楽してるよね」と思われてしまう(一同笑)。

石田 ちゃんと仕事してるんだぞ! ってね。

葛西 だから今、こうしてアピールしてるわけで(笑)。でも明かりとしては、それが一番だと思ってるんです。照明や音響などの裏方は、作品を盛りたてるために存在するものですからね。だから、照明が印象に残るより「作品が良かったね」と言われる方がいい。

石田 じゃあ逆にアンケートで「照明が良かった」と書かれたら?

葛西 出しゃばり過ぎちゃったかなあ、と考えますね(笑)。

 

 

 

■葛西さんがくれるアドバイスで、方向性が見えてくることがある(石田)

 

石田 葛西さんはときどき、僕らに何気なくアドバイスをくれたりするんですけど、それがすごく沁みるんですよね。みんなで悩んでる時に「面白いと思うよ」とか「こうしたらいいんじゃない?」と一言ポロッと言ってくれた途端、方向性が見えてくるという感じになったりすることが、結構あるんです。

葛西 それは多分、外から見る目で舞台を見てるからじゃないかな。照明プランを作る時は、どっちかと言うと演出の目というか…遠くから全体を見て「ここに明かりが必要な理由は何だろう?」と考えるようにしてるんですよ。でもオペレート(操作)をする時は、逆に役者の気持ちになって、中に中に入り込んでいく。

石田 えー、そうなんだ !!

葛西 だから最初は全体をざっくり俯瞰で見て、そこからだんだんミニマムな世界になっていくイメージ。最近ヨーロッパ企画は、役者が舞台を上下動する「縦の動き」をよく使うけど、それだと特に役者の立ち位置に、意味とか必要性が出てくるんです。「なぜこの人は、今ここに立っているのか?」ということを、すごく考えながら光を作っています。

石田 ちゃんと…仕事されてるんですねえ(一同笑)。僕本当に失礼なんですけど、「取りあえずこの位置に役者がいるから、ここに明かりを当てておこう」ぐらいの考えで作っているのかなあって思ってましたよ。で、『ロベルト』は、どんな照明になりそうなんですか? 照明でいろいろ「移動」を表現するとは聞いてますけど。

葛西 そうですね。照明と映像で、動かない空間をいかに動いてるように見せるか、というのが課題。動くライトを使ったりしてみようかな、とは思ってます。

石田 僕、それを聞いた時にビックリしたんですよね。割と映像中心で表現するのかなあ、と思ってたから。

葛西 だから今回は、結構派手な照明になるかも。

石田 かも? と言っても、地味に派手な感じだったりしてね。地味の中の派手(笑)。その具体的なやり方は、これからいろいろ試してみる感じですか?

葛西 そうそう。今回は幸い、劇場で 1 週間ぐらい稽古できるから。「どうやったら移動してるように見える照明が作れるか?」というのを、この機会にじっくり考えてみたいです。

石田 楽しみですよねえ。ところで役者の方は、今はやってないんですか?

葛西 いや、今も現役のつもりではいるんですよ(笑)。

石田 マジすか! じゃあヨーロッパに役者として呼ばれたら…。

葛西 それはもちろん、スケジュールさえ空いていれば。

石田 照明と両方やりながらね(一同笑)。

葛西 それだと、きっかけの前に必ずハケなくちゃいけなくなるなあ(笑)。

 

 

【質問:あなたが操縦したい物は何ですか?】

葛西 僕はロボット世代だから、やっぱり乗り込んで操縦するタイプのロボットです。ガンダムとか。あとマジックカーペットみたいな、ふわあっと浮かぶような物ですね…マジックカーペットって、あれって「操縦する」って言うのかな?

 

石田 僕基本的に、車の運転とかゲームのコントローラーとか、そういう操作する物が苦手なんですよ。自動車のハンドルを持つと震えるぐらい(笑)。でもヨットやモーターボートみたいな船だったら、操縦できたらいいなあと思ってます。海の上だとすごく気持ちいいだろうし、あまり接触事故とかなさそうだし(笑)。

 

(2011/8/15収録)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【註】

註1: 2008 年に、元・立誠小学校で 3 日間に渡って開催された「 Rissei Show 」というイベント。ヨーロッパ企画は、上田以外の劇団員の作・演出作品を上演したり、メンバーの特技を生かしたワークショップを開催するなど、文化祭的なノリで会場を盛り上げた。コチラにその当時の詳しいレポートあり。 http://www.europe-studio.net/risseishow/

 

註2:葛西が主宰・演出を務めている京都の劇団。 2011 年現在、活動休止中。

 

註3:松田正隆(マレビトの会)の戯曲を、平田オリザ(青年団)が演出し、 97 年に上演した伝説の舞台。離島で暮らす姉弟を中心に濃厚な人間関係を描き出し、読売演劇大賞最優秀作品賞にも輝いている。

 

(取材・文:吉永美和子)

 

 

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