■ヨーロッパ企画の仕事で、美術の引き出しは増えているかもしれない(長田)
酒井 でも長田さんぐらい、上田さんのオーダーにちゃんと付き合ってくださる美術家さんなんて、そういないと思うんですよ。
長田 いや、他の美術家さんでもできると思いますけど(笑)。まあ確かに、言うことが二転三転して、結局一番最初に戻るみたいなことが、よくありますよね。でもそれも上田作品だ、と思って「なるほどねえ、なるほどねえ」と聞いてます。もうこれはね、もはや…「時差だ」と考えてる(一同笑)。京都は 1 日が 30 時間あるんだ、というルール(笑)。
酒井 いや、そのルールわからないですけど(笑)。でもそういう風に処理していただけないと、ストレスばっかり感じられてしまうかもしれないから。
長田 いやいや、ヨーロッパ企画は本当にやってて楽しいですよ。
酒井 どこが特に楽しいですか?
長田 いろいろありますけど、やっぱり上田君の発想の面白さ。二転三転したりはするけど(笑)、基本「え、あえてそれをやっちゃいますか?」と思うぐらい、意外なことを言ってくるんです。賞をいただいた(※註2)『ボス・イン・ザ・スカイ』( 09 年)の美術も、(舞台美術の)大御所の先生たちからは「あんな高い位置に役者を置いて見切れも出るようなセット、怖くて誰も作ろうとは思わない」と言われましたし。
酒井 あー、一見シンプルに見えて、実はすごく常識を破った舞台美術だったわけで。
長田 そうなんですよね。普通なら立場上セーブかけなきゃいけない部分でも、あえてやってしまったりして。だから冷静に考えてみると、実はヨーロッパ企画の仕事をやっていることで、いろいろ美術家としての引き出しは増えてるのかもしれません。
酒井 僕が舞台美術をやっていた(※註3)頃からそうでしたけど、セットには独特のこだわりがありますからねえ、上田さんは。最初からちゃんと全体の構造を決めて、その細部のつじつまが合ってないと嫌がるし、あまり省略をしたがらない。
長田 そうそう。たとえば『あんなに優しかったゴーレム』( 08 年)の時に「地面の部分は黒塗りのマスキングパネルとかでいいのでは?」という話をしたら「でもここは、土ですから」と言い張って。なのでスチロールを削って、土っぽく見せる処理をしました。どうもお芝居的なお約束みたいなのがダメというか、見過ごせないって感じなのかなあと思う。
酒井 僕も「この部屋の反対側は外だから、こっちに部屋はないはずだ」とか言われたり。
長田 「(舞台上に見えている部分の)先は、こう見えるようにしてほしい」ということにかなりこだわってるというか…役者を舞台から退場させる時、または出てくる時に、どういうふうに見えるかということを、かなり慎重に考えてデザインしていると思います。
酒井 舞台上だけで完結させず、その背後に広がってる世界がどうなっているのかまで、頭に入れて指示してるんだろうなあ、とは思いますね。
長田 そういえば今回の美術は、ある部分は酒井君に任せてるよね?
酒井 はい、久々に舞台美術に復帰しました。小道具と大道具の中間の、中道具的な所で。
長田 ついに出ました、酒井・長田コラボレーション(笑)。でも今回はメカがメインの話だから、マニアックな酒井君が乗り物の全体デザインした方が良かったんじゃないの?…っていうことを上田君に言ったら「僕と酒井がやると、ガチになるから良くないです」って(一同笑)。
酒井 あ、そうなんですよ。 30 代より上の男性しか喜ばない、ニッチな舞台になりかねない、と。そこで長田先生の、女子目線を入れていただいて(笑)。
長田 オシャレ劇場に足を運ぶ女性たちでも、楽しめる美術を…って、そんな女子的観点持ってないから(笑)。でもまあ、そう見えてくれたらいいですよねえ。
【質問:あなたが操縦したい物は何ですか?】
長田 ロケットとかスペースシャトルですね。大気圏突入したいです。でも一番乗りたいのは…「操縦」とは違うけど、馬です。馬が欲しいんですよ。(酒井が「馬は軽車両扱いで、一般道を走ることができる」と言うのを聞いて)え、うっそ! じゃあ馬で !! (笑)
酒井 (即答で)ロボットです。人型の巨大ロボット。特にガンダムのザクですね。やっぱり一番最初のモビルスーツなんで。とにかく、宇宙でロボットを動かしたいんですよ。それができたら死んでもいいです。 (2011/8/17収録)
|