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(左:酒井 右:長田)

舞台装置と人間が有機的に関わるような芝居」 を信条とするヨー ロッパ企画。その舞台では美術、照明、 映像などのスタッフワーク が、脚本や役者と同等──時にはそれ以上に、 重要な役割を果たしてい るのです。そして『ロベルトの操縦』 では、 どんな舞台が立ち上がることになるか? 今回参加している各スタッフに、それぞれの仕事の内容や心得、 ヨ ーロッパ企画にまつわる裏話などを、ヨーロッパの役者たちが、深く鋭く聞き出します。

 

■長田さんの舞台美術は、芝居をするのも組み立てるのも楽しい(酒井)

 

酒井 長田さんはドイツから帰ってきて(※註1)これが初めてのヨーロッパ企画での仕事になりますよね。ドイツの演劇って、やっぱり日本と違ってました?

長田 全然違いますね。新作と同じくらい古典作品を多く上演しているんですが「これ本当にシェイクスピア?」って思うぐらい、演出や解釈が刺激的なんです。

酒井 ほー。たとえばどんな感じですか。

長田 天井もある真四角の囲み舞台で、役者は出ずっぱりだったり、真っ裸で血糊をガンガン掛けあったりとかね。舞台全体が縦に回転するという、仕掛け一発だけですべてのシーンを構成するような美術もあったり。過激だけどよく考えられてるなあ、と感心しましたね。多分かなり早い段階で、美術家と演出家が話をしてないと、あそこまでのクオリティの物はできないと思う。

酒井 なるほど。ちゃんと話を詰めていると。じゃあ『ロベルトの操縦』の美術は、もちろんドイツ留学によって何かが変わって…。

長田 ないです(笑)。

酒井 ちょっと!

長田 でも留学してすぐに、それが形になって出てくるのは、ただのパクリに過ぎないでしょ。 10 年ぐらいかけて咀嚼されて出てくるものだと、みんなにも言われてます。

酒井 でもさっきの、ドイツでは演出家と美術家が早い段階から打ち合わせをしているというのは、おこがましいですけど…ヨーロッパ企画もそうだなあと思ったんですよ。

長田 あ、そうだと思います。美術については、脚本ができるずいぶん前から、打ち合わせをスタートさせますから。それにヨーロッパの…あ、海外の方のね(一同笑)。

酒井 すいません、ややこしい劇団名付けちゃって(笑)。

長田 まあ、ヨーロッパの演劇みたいに、初日 1 週間ぐらい前から劇場にセットを組んで稽古をすることも、日本では珍しいと思います。通常は初日の 3 日前くらいに美術を建てこんで、照明・音響を作って場当たりしたりしてから通し稽古…というのがやっとだから。

酒井 ヨーロッパ企画はヨーロッパナイズされていると(笑)。でも実際にセットを組んでみてから「この舞台だったら、こういうこともできますよね」というような発見があって、小道具や脚本が変更になったりすることは多いですよね。

長田 そうですね。それと場当たり前には、舞台監督さんからセットの説明があるので、まずそれを聞くものなのね。でもヨーロッパ企画では、みんなすぐに舞台に上がって、好き勝手に遊び始めるんですよ。誰も舞台監督さんの話を聞いてない(笑)。

酒井 幼稚園みたいな(笑)。確かにね、確認というよりは、社会見学とか体験学習みたいなノリになりますね。「ここからも登れるんや!」とか言って。

長田 それを見ていると「うふふ、良かった良かった」と、微笑ましい気分になります(笑)。

酒井 でも本当に、長田さんが作るセットは毎回芝居してても楽しいし、仕込みで組み立てるのも楽しいんです。結構複雑な作りだから、プラモデルを作る気分に近い(笑)。

長田 それ、酒井君だけだと思う(笑)。でも自分では、役者がその中に入ってから完成、と思えるような美術を作ってるつもりなんです。それだけで見せることもできるけど、ヨーロッパ企画のメンバーが、あのゆるーい雰囲気で居座った瞬間に「おー、いい舞台じゃないか」と思える。そういう美術になってたらいいなあと思います。

 

 

 

■ヨーロッパ企画の仕事で、美術の引き出しは増えているかもしれない(長田)

 

酒井 でも長田さんぐらい、上田さんのオーダーにちゃんと付き合ってくださる美術家さんなんて、そういないと思うんですよ。

長田 いや、他の美術家さんでもできると思いますけど(笑)。まあ確かに、言うことが二転三転して、結局一番最初に戻るみたいなことが、よくありますよね。でもそれも上田作品だ、と思って「なるほどねえ、なるほどねえ」と聞いてます。もうこれはね、もはや…「時差だ」と考えてる(一同笑)。京都は 1 日が 30 時間あるんだ、というルール(笑)。

酒井 いや、そのルールわからないですけど(笑)。でもそういう風に処理していただけないと、ストレスばっかり感じられてしまうかもしれないから。

長田 いやいや、ヨーロッパ企画は本当にやってて楽しいですよ。

酒井 どこが特に楽しいですか?

長田 いろいろありますけど、やっぱり上田君の発想の面白さ。二転三転したりはするけど(笑)、基本「え、あえてそれをやっちゃいますか?」と思うぐらい、意外なことを言ってくるんです。賞をいただいた(※註2)『ボス・イン・ザ・スカイ』( 09 年)の美術も、(舞台美術の)大御所の先生たちからは「あんな高い位置に役者を置いて見切れも出るようなセット、怖くて誰も作ろうとは思わない」と言われましたし。

酒井 あー、一見シンプルに見えて、実はすごく常識を破った舞台美術だったわけで。

長田 そうなんですよね。普通なら立場上セーブかけなきゃいけない部分でも、あえてやってしまったりして。だから冷静に考えてみると、実はヨーロッパ企画の仕事をやっていることで、いろいろ美術家としての引き出しは増えてるのかもしれません。

酒井 僕が舞台美術をやっていた(※註3)頃からそうでしたけど、セットには独特のこだわりがありますからねえ、上田さんは。最初からちゃんと全体の構造を決めて、その細部のつじつまが合ってないと嫌がるし、あまり省略をしたがらない。

長田 そうそう。たとえば『あんなに優しかったゴーレム』( 08 年)の時に「地面の部分は黒塗りのマスキングパネルとかでいいのでは?」という話をしたら「でもここは、土ですから」と言い張って。なのでスチロールを削って、土っぽく見せる処理をしました。どうもお芝居的なお約束みたいなのがダメというか、見過ごせないって感じなのかなあと思う。

酒井 僕も「この部屋の反対側は外だから、こっちに部屋はないはずだ」とか言われたり。

長田 「(舞台上に見えている部分の)先は、こう見えるようにしてほしい」ということにかなりこだわってるというか…役者を舞台から退場させる時、または出てくる時に、どういうふうに見えるかということを、かなり慎重に考えてデザインしていると思います。

酒井 舞台上だけで完結させず、その背後に広がってる世界がどうなっているのかまで、頭に入れて指示してるんだろうなあ、とは思いますね。

長田 そういえば今回の美術は、ある部分は酒井君に任せてるよね?

酒井 はい、久々に舞台美術に復帰しました。小道具と大道具の中間の、中道具的な所で。

長田 ついに出ました、酒井・長田コラボレーション(笑)。でも今回はメカがメインの話だから、マニアックな酒井君が乗り物の全体デザインした方が良かったんじゃないの?…っていうことを上田君に言ったら「僕と酒井がやると、ガチになるから良くないです」って(一同笑)。

酒井 あ、そうなんですよ。 30 代より上の男性しか喜ばない、ニッチな舞台になりかねない、と。そこで長田先生の、女子目線を入れていただいて(笑)。

長田 オシャレ劇場に足を運ぶ女性たちでも、楽しめる美術を…って、そんな女子的観点持ってないから(笑)。でもまあ、そう見えてくれたらいいですよねえ。

 

 

【質問:あなたが操縦したい物は何ですか?】

長田 ロケットとかスペースシャトルですね。大気圏突入したいです。でも一番乗りたいのは…「操縦」とは違うけど、馬です。馬が欲しいんですよ。(酒井が「馬は軽車両扱いで、一般道を走ることができる」と言うのを聞いて)え、うっそ! じゃあ馬で !! (笑)

 

酒井 (即答で)ロボットです。人型の巨大ロボット。特にガンダムのザクですね。やっぱり一番最初のモビルスーツなんで。とにかく、宇宙でロボットを動かしたいんですよ。それができたら死んでもいいです。

(2011/8/17収録)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【註】

(註1)長田は 2010 年に、文化庁在外研修でドイツに留学。同年の『サーフィン USB 』は、二村周作氏が舞台美術を担当した。

 

(註2)長田は 2009 年に、ヨーロッパ企画『ボス・イン・ザ・スカイ』の円形囲み舞台で、国内の舞台美術界で権威のある賞「第 37 回伊藤熹朔賞」新人賞を受賞している。

 

(註3)ヨーロッパ企画の舞台美術は、長田が来るまでは酒井が担当していた。酒井が外れた理由は、本人いわく「『苦悩のピラミッダー』( 07 年)で使う石柱を大きく作りすぎて、トラックに積み込めないという事件を起こしたから」。

 

(取材・文:吉永美和子)

 

 

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