インタビュー

上田誠 続編(ネタバレあり)new

 

■下手が楽しいけど上手に行かなければ、という構図が好きすぎる。

──『ヨロッパ通信』表紙にその名残りがありますけど、当初の設定では、貴族たちは城内のクリケット場を目指してましたよね?
クリケット大会に参加する貴族たちが、お城の庭…要は下の方を目指す話にしていたんです。でもだんだん、一度上に行こうとするけど、途中で下に目的地が変わる方が面白いんじゃないか? と考え始めて。それで結構ギリギリになってから、最初は上階のパーティ会場を目指して、途中でそれが中庭に移るという、今の設定に変えました。これだけ大きな具材を捨てたのは、初めてのことです。
──それは物語の流れが、そっちの方が都合が良かったのですか?
むしろ人の出し入れの問題ですね。そっちの方が、パズルのピースが上手くハマるというか。僕の嗜好として、上手(客席から見て舞台右)の方に行かなきゃいけないはずなんだけど、下手(客席から見て舞台左)の方につい魅かれちゃう奴ら、という構図が、もう好きすぎるんですよ。今までの作品を振り返ってみても、この設定があまりにも多い(笑)。
──確かに『ロベルトの操縦』はもろ下手に向かう話でしたし、『月とスイートスポット』も下手寄りで話が展開してましたよね。
それってハッキリ言うと、東京と京都の関係なんです。上手が東京で、下手が京都。東のほうに、東京、さらにはアメリカと、そういう世界が広がっていく中で、僕らはそうじゃない場所で呑気にやっているけれど、でも何となくそっちの方にも引っ張られちゃうなあ…という。そういう風に、現実の地図の感じが舞台上に反映されていると、劇が作りやすくなるというのが、僕には大いにあります。まあ今回は東欧なんで、ちょっと違うんですけど(笑)。

■やっぱり「位置」は面白い。言葉にしなくても伝わってくる。

──今回の美術は、可愛らしいこと以外に、観客からもゴールが見えないという構造が、すごく肝だなあと思ったんですが。
それ結構、大事でしたね。全貌が見えきってる迷路と見えてない迷路では、全然違うから。最初にバイエルン卿が出てくるあの場所が、すごく不思議な場所なんですよ。迷路の中の、ちょっとした踊り場というか。
──巨大迷路で言う所の、見晴らし台的な。
そうそう、そういう所。あの場所を、迷った人たちが集まるたまり場的にすることも考えたんですけど、結局あまりいたくない場所にして、全体を動的にする方を選びました。「とにかく座らないように、ずっと動きまわってください」という風に演出して。
──メイド役の吉川(莉早)さんが登場する、上部の渡り廊下は、最初の美術プランでは存在しなかったそうですね。
あの舞台で、メイドはどこから登場するのかな? と考えたら、あのたまり場には行かないような気がしたんです。ちょっと離れた、しかも上の方の場所から話しかける方がいいなあと思って、(美術の)長田(佳代子)さんに後から付け加えてもらいました。
──あの位置だと、完全に迷路の出来事が対岸の火事って感じに見えるので、それが効果的でしたね。
やっぱり位置は面白いですよ。言葉にしなくても伝わってくる何かがあるから。花(花本有加)ちゃんも、新しい塔から古い塔に怪物を迎えに行ってるけど、試しにこの流れを逆にしたら、どうもハマらなかったんですよね。その人が居るのがハマる場所や動線というのは必ずあるので、その感触にはあまり逆らわないようにしています。それは理屈じゃなくて、僕の生理みたいなものなんですけど。
──そういえば、稽古中は第4王子主催のパーティだったのが、本番では第6王子になってましたね。
それも何か、4より6の方がいいかなあと。
──でも確かに、4番目より6番目の方が王位から遠い分「お気楽なパーティなんだろうな」という感触が、より強くなりました。
そうなんです。さっきと逆の話になりますけど、言葉にしなくても伝わるものがある一方で、1つの言葉だけでバッと世界が見えてくることもあるんですよ。花ちゃんが怪物を連れ出す動機も、最初はピクニックと言ってたんですけど、それが謝肉祭になって…。
──謝肉祭に連れ出す方が、明らかに事件性が高い。
事態の大変さとか、ムードも含めて、それだけで伝わるんですよ。説明的な台詞を使わなくても、いろんなことを想起させたり、納得させることができる一言っていうのは、やっぱりあるんです。

■一番振りぬいた形で、迷路コメディを完成できたのが大きい。

──あのお城があそこまでデタラメに建て増しされてる理由って、何か裏設定があったんですか?
劇中でも語られてますけど、王権が影ってきて、ヒエラルキー構造がどんどんフラットになっていってる時代ですね。トップの象徴であるはずのお城もどんどん崩れていってるので、いたる所で建て増しがされ、そのためにお城の中心がどこかわからなくなっている。そんな中で、今はどこが一番いい場所なのか? を探して、人々がウロウロするっていう世界を思い描いてました。それって現代の感覚にも通じるけど、別に風刺がしたかったわけじゃないんですよ。お客さんの「この感覚、何となくわかる」という感じが、笑いにつながることがあるからなんです。
──確かに貴族たちが、周囲の事件に対して無視を決め込み、目先の目的にしか目を向けなくなるラストは「それでいいのか?」と思う一方で、「そうできればなあ…」とも同時に感じましたね。
僕はツイッターとかはやってないけど、それでも今の世の中は、情報が多すぎるなあと思うんです。もちろん気持ちよく乗りこなしてる人もいるでしょうけど、それを「もういいや」って捨てるのも、それなりに快感をともなうんじゃないかっていう。その目論見が外れるのが一番心配だったんですけど、お客さんの反応を見る限りでは、この感覚は割と腑に落ちてるのかなあと。それに作劇のスタイルとして、いちいち全部の問題を解決するのではなく、逆に全部放ってしまうというのは、割と新しい考え方なのかもしれないです。
──実際いろんな意味で「全部解決させないと納得できない」と思う人は少なくないと思いますが…。
それは別に、もういいかなと(笑)。それよりも今回は、ただ人がウロウロするだけっていう状況を、ちゃんと芝居にできたのが、僕にとっては大きいんです。迷路で迷う人たちをただ1時間半見続けた、という感想の劇にしたかったので。もっと城が崩れるとかの、盛り上がるような事件も入れようかな? とか考えましたけど、結局は余計なことを入れずに突き抜けて行った方がいい、という結論に。
──でも本当に「人がウロウロしてました。おしまい」という説明だけで十分という感じの、珍しいコメディになりましたよね。
そうですね。いろいろな雑念や葛藤もあったけど、最終的には一番振りぬいた形で完成したから良かったです。でもやっぱり難しかったですよ、迷路コメディは。ストイックですから(笑)。

取材:吉永美和子

 

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