上田誠 (ネタバレなし版) |
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■全体が均質に埋まってる、空中性の高い空間を作りたかった
──「迷路コメディ」は以前からやりたかったそうですが、なぜこのタイミングになったのでしょう?
企画性コメディ路線になってからは、バラエティ感というか「前回こういうのをやったから、次は違うことを」というのを大事にしてるんです。時代の流れや必然性とかは気にせず、自分たちで勝手に流れを作っていくという。それで『月とスイートスポット』では、人間同士をちょっとウエットに描いたから、次はあまり人にスポットを当てないものにしようと思いました。あと『ロベルト(の操縦)』以前まで、せっかく空中性の劇を追求していたのに、最近はそれを疎かにしていたというのもありまして。
──空中性?
『火星の倉庫』から『サーフィンUSB』まで、この世界の上空とか地下とか、場所の高さにこだわった作品をやってたんですけど、『ロベルト』以降は、普通に地面に立ってる世界をやってしまってたんです。またここらで、空中性を取り戻したいという、それが一番大きかったですね。特に前回は、地を這うような劇だったから。あと劇のベクトルが『ロベルト』は舞台横、『スイートスポット』は舞台奥と、割とハッキリした作品が続いたので、そういう指向性がない…舞台全体が均質に埋まっていて、どこに向かえばいいのかわからない場所で、人が上下左右ウロウロする劇がやりたかったんです。『Windows5000』以来じゃないですかね? そういう空間は。
──あと昨年訪れた、チェコの街の風景にも影響されたそうですが。
迷路コメディを作る上で問題だったのは、迷路って基本的に「そこにいたくない」「抜け出したくても抜け出せない」象徴みたいな場所なので、なんだか寒々と した光景の劇になってしまうんじゃないかな、という懸念です。灰色の世界みたいな。でもそこにチェコの街のような、中世東欧ってフィルターをかけて戯画化 したら、殺伐さが減るんじゃないかなあと。しかもそれを、ポルカのにぎやかさで包めば、アリみたいな気がしてきました。だからタイトルを決めて、音楽を滝本(晃司)さんにお願いして、チラシ作った時点で「あ、これはいいのができた」と(笑)。でも意外とそこから、具体的に形にするのが難しかったです。
■難しい世界だけど、美術の長田さんと永二さんに助けられた
──今回はサイトの企画で、稽古中の全役者さんに話を聞けたのですが、実際に皆さん「迷路での演技は難しい」と言ってましたね。
やっぱりストレスフルでしたね。ひたすら移動して逃げ切る『ロベルト』や、過去の方にボンボン世界を広げた『スイートスポット』みたいに、気持ちいい流れが延々続いて終わり、という風にはできなかったんですよ。迷路はベクトルがいろんな方向にあって、一本の筋が通らないから、それができない構造なんだなと。目的地が見えてるのに、そこに気持ちよく向かえないというストレスを、逆にどうやって劇の力に生かしていくのか? というので苦労しました。
──その助けになったのは?
美術の長田(佳代子)さんと、(菅原)永二さんのファインプレーです(笑)。長田さんには「立体的な迷路で、かつ可愛いらしいお城」というリクエストをしたんですけど、一発目ですぐいい感じに作ってくれたので。あと永二さんは、稽古初日のエチュードを見た時に、もう「迷路で迷っている貴族」という絵がバシッと決まってしまったんです。そこからは、いかに稽古初日のあの設定から、話を積み上げていくかという作業でした。
──他の2人のゲストは?
花ちゃん(花本有加)は、最初から姫役にと思ってました。ダンサーの動きを活かして、それこそあんみつ姫のように迷路上をかけ回ってほしいなあと。吉川(莉早)ちゃんは、最初は西村さんも含めた3人で姫役をやってもらおうと思ってたんですけど、全員のシルエットが案外似ていたんですよ。だったら2人は、姫じゃない方がいいなと。それで別の役にしたんですけど、吉川ちゃんの居場所をつくるために、舞台セットを追加することになりました(笑)。あの高さのところに居てほしいな、と。
■たけし城的な世界に、シェイクスピア風の演劇を掛け算する
──以前から『風雲! たけし城』や『SASUKE』のような、アトラクション的な仕掛けと人間の格闘を見せる世界が理想と言ってましたが、今回の芝居はそれに最も近づいたという感じを受けました。
そうなんですよね。会話自体の力よりも「こんな場所に人がいて、こんな風に動いている」という面白さの方が、劇の根拠になる感じ。かと言って、ただ人がウロウロしてるだけだと、たけし城見てた方が面白い、ということになりかねなかったんですよ。今回それが上手くいったのは、たけし城的なことと、中世貴族ごっこの掛け算ができたからなんです。迷路で迷うという身体的なことに、大仰な文語体の演劇が入ってくるという。
──そう言われると、台詞の言い回しとかで、結構シェイクスピア劇っぽい所がチラチラとありましたよね。
そうそうそう! それがいいノイズになるんですよ、お互いがお互いの。さらに、いつもなら恥ずかしくなるようなオーバーな演技も、迷路の中なら恥ずかしくないという。ちゃんと演劇によって、たけし城やSASUKEにはできないことがやれたというのが大きいです。
──今回は貴族で前回はヤクザ、その前は軍隊と、従来のヨーロッパ企画らしからぬ、等身大ではない世界が続きましたよね。
やっぱり企画性が高いと、多少虚構的な役をやっても大丈夫というのがあるんですよ。今回も迷路という企画性がなかったら、ただのなんちゃって貴族物になってたんじゃないですかね?
──あと今回の話は、結構わかりやすい風刺色があるので、現代の設定にしたら、それがあからさまに見え過ぎたかもしれませんね。
まあ「迷路で貴族が迷ってる」という設定だけで、すでに風刺っぽいですからね(笑)。でも結構辛らつなテーマでも、ファンタジーやSFにすると、笑い話になるっていうのがあるんですよ。イソップ童話だって、主人公が動物だから、微笑ましく読めるじゃないですか? そうやって、テーマから少し距離を置くことでコメディにするっていうのは、割と僕がよくやってることです。
──毎回違う劇を続けていきたいとのことでしたが、今回の作品を経て、次の企画について考えていることはありますか?
昔は大勢でワイワイしゃべるような劇が多かったけど、ここ最近はそういうシーンが少なくなってきましたよね。1人や2人でも大きな舞台を支えられるぐらい、メンバーの演技体ができてきたってことだとは思うんですけれど。でも次は、久々に群像劇がやりたくなったので、何か群像になるような“企画”を考えたいと思います。
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永野宗典(2013/09/05) |
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普段から、演技とか身の振り方で迷いまくっているので(笑)、迷路というのは好きな設定です。でも今回の舞台は、アクティングエリアが細くて狭いので、動きを作りにくいんですよ。僕は芝居の流れを動きで持っていくようにしてるから、すごくもどかしくて、そういう意味では相性が悪い舞台です(笑)。役の方も、かしこまって感情を抑えている部分が多いので、今回はいろいろ封じられておりますね。その中でも、できる範囲で動こうと思ってます。
台本も、情報に振り回されたりとか、他人の場所は良く見えていても自分の居場所は見えてないなど、いろんな現状を上手く表現できたものだと思います。お客さんの目を喜ばせる要素がたくさんある劇になったと思うので、ぜひ楽しみに来てください。
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西村直子(2013/08/31) |
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今回は女の子の共演者が多いから、メチャクチャ楽しいです。舞台の方も、これだけ女の子がドタバタ動き回る芝居は珍しいんじゃないですか? あとヨーロッパの人たちが、貴族を演じるのも新鮮ですよね。菅原さんがすごく貴族らしくて、それにみんなが引っ張られて、どんどんそれっぽくなって来ているのが面白いです。
私の役は…今回もネタバレになるから言えません(笑)。後半辺りに、出落ちみたいな感じで登場することになりますけど、多分舞台がいい感じに温まったところで出ることになるので、それはそれで美味しいかな? と思います。特に今回は、新しいチャレンジをいろいろさせてもらえるんですよ。結構怖いんですけど、これができないと芝居が前に進まなくなっちゃうので、毎公演思い切ってやり遂げたいです。
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酒井善史(2013/09/04) |
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前回はタイムパトロール、その前は異星人と、違う世界から物語に入ってくる役が続いてましたけど、今回は久々にみんなと同じ状況の役です。ただ他の人たちが目的地を探してるのと違って、僕は迷路の中を動き回ってる、あるものを探しています。なので皆さんより、攻略の難易度が高いですね。
今回は、かねてから作りたかった小道具を作れたのが嬉しいです。ヒーローショーの小道具さんと仲良くなって、素材とかをいろいろ教えてもらってたので、その知識をふんだんに盛り込みました。劇中で僕が持ってる唯一の小道具がそれなので、舞台を観ていただければ「ああ、アレを頑張って作らはったんやな」ということがわかると思います。今も改良を加えてますし、演技する時にも、小道具がもっとよく見えるようにしたいです(笑)。
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土佐和成(2013/08/30) |
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今回の役は、相当迷ってますよ。役柄的にも、登場人物の中で一番迷路を把握できなくて迷ってる役ですけど(笑)。やっぱり迷路の舞台って全体が見えない分、舞台上でどんな感じでいれば面白くなるのかが、いつも以上に探りにくいんです。あと今回も、中川さんとコンビになってますけど、「多分これだったら上手くいく」というやり方ばっかりで演じてたらあかんやろうなあ…とか。プレビューで全体の流れを見てから、改めて本番までにいろいろ試すことになりそうです。でもこれだけ挑戦できることが多い舞台って、あんまりないと思います。
今回は『Windows5000』と同じで、多分映像で見たらちょっと物足りないというか、舞台全体を観た方がずっと楽しめる作品になると思います。だから本当に、劇場で観てほしいです。
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角田貴志(2013/08/25) |
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僕は貴族側の人間ですけど、他の貴族たちとは軋轢(あつれき)があるという設定です。でも彼らと考え方が違う分、迷路作戦では誰よりも一歩先んじてます。迷路ヒエラルキーでは、かなり上の方です。今日衣裳合わせがあったんですけど、ヒラヒラしたマントとか付けてたら、やっぱりちょっと偉い人の気分になってきました(笑)。
本番用の舞台セットでの稽古も始まったんですが、すごくいい美術ですよ。よく「演劇のウソ」みたいなのがありますけど、今回のは建てましのされ方が、意外とつじつまが合っているというか。「ここは以前、こんな建物だったんだろうな」と、想像を膨らませる楽しみ方もできると思います。ただ舞台裏の方も迷路みたいになっているので(笑)、出ハケで混乱しないよう気をつけたいです。
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石田剛太(2013/08/25) |
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今回のセットを一言で言うと、かわいいです。ミニチュア模型のかわいらしい感じが、そのまま大きくなった、みたいな。しかも舞台上に見えてる所だけじゃなく、その奥のすっごく入り組んだ部分まで想起させますよね。全体的に何か楽しい雰囲気だから、もしかしたらお客さんも笑いやすい空気になるかもしれません(笑)。
僕は今まで、みんなの中心でずっとしゃべってるという役が多かったんですけど、今回も『月とスイートスポット』に続いて特殊な役です。上田君の中で、僕にそういう役割を演じてもらいたい時期なのかもしれないですね。すごくわかりやすいキャラで、今までの作品の中でも随一の飛び道具的な役。出た瞬間、老若男女誰にでも「あ、面白い役だ」と思ってもらえると思います…って、自分でどんどんハードル上げてるよな、これ(笑)。
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花本有加(2013/08/20) |
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普段は「KIKIKIKIKIKI」という、女子3人のカンパニーでダンスをやってます。ダンスで舞台に立つ時は、自分とは別物になる感じなのでやりやすいんですけど、ヨーロッパの舞台みたいに割と普通の人を演じる時は、何か気恥ずかしくなっちゃうんですよ。それに舞台で言葉を使い慣れてないから、エチュードで話しかけられても、うなずくぐらいしかできなくて(笑)。1人で動くシーンはまだ自由にやれてますけど、やっぱり「これ、邪魔してないかな?」と、まだ少しビビっています。
私はお姫様の役です。素の自分とかけ離れた役なので、まだ恥ずかしさが薄れてありがたいですね。ディズニーのお姫様みたいには絶対なれないので(笑)、私が実家にいる時の感じ…わがままで自由奔放な姫を演じようと思ってます。
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諏訪雅(2013/08/20) |
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客演の(菅原)永二さんは一度舞台で共演したことがあって、その時もとんでもないほど面白くて、ヨーロッパ企画に出てほしいって僕がすごく熱望して、タイミングもよく今回出てもらえることになったんですけど、実際に稽古してると、一緒に舞台に立っているということを忘れてしまいそうなくらい、永二さんの演技に見とれている時があります(笑)。
僕が演じるのは、迷路を一番熟知している役ですね。その迷路でしか生きていけないような。ただ日常の会話とは少し文法が違う話し方だったり、仕草もそうで、エチュードではまずそこをなじませていくことに時間がかかりました。と言ってもまだ出来てるわけじゃないですけど(笑)でもまあゆっくり身体に落ちていけばいいかなあと。あと役柄的には痩せたほうがいいのか、とも思うんですけど、でもさすがに間に合わないかもなあ……どうですかね? |
中川晴樹(2013/08/20) |
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僕も(菅原)永二さんと同じく、迷路で迷ってる貴族を演じます。本来迷って楽しむはずの場所に、「迷うことはカッコ悪い」と考えてる人間がいる状況だけでも面白いですよ。僕は普段ツッコミ役が多いですけど、今回はツッコんでる姿すらボケに見えてくるような空気を、上田は作ろうとしてるみたいです。あと今は、永二さんとはどれぐらいの力関係でいるのが一番面白いのかを、いろいろ探っているところです。
前作の『月とスイートスポット』とは、全然違う舞台になってきてますね。ドラマっぽいことをやった次に、30代後半に入りかけたおっさんたちが、デカいセットの中で何かチマチマやってるという(笑)。15年続けてきた劇団ならではの振り幅を感じてもらえるだろうし、あまり観たことない世界になると思います。
(左より土佐和成、中川晴樹) |
本多力(2013/08/18) |
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今回はちょっと苦戦してますねえ。シーンのイメージはできていても、実際に演じてみたら違う感じになることが多くて。舞台が迷路なので、相手との距離を計りにくいのが原因かもしれないです。簡単に近づけないから、感情的になった時に、バッと相手に詰め寄るとかもできないですし。でもそこが逆に、この舞台の面白さでもあると思います。
僕が演じる人は、みんなと同じように迷路にいるけど、どうやら目的地には着いているようです。すごくしょうもない人なので(笑)、お客さんから「ダメな奴やなあ」って思われたらいいかなと。あと特殊な職業だから、その技を舞台で見せなきゃいけないんですよ。生まれて初めてやることやけど、ちゃんとできた方が面白くなると思うので、本番までにできるようにしたいです。
(左より本多力、吉川莉早、諏訪雅) |
吉川莉早(2013/08/16) |
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京都の「悪い芝居」という劇団にいた頃に、ヨーロッパ企画の先輩方と顔見知りになりました。退団後に上田さんの作る芝居に出させて頂いたんですが、その時に「しょうもない役も、楽しそうにやってくれるから助かります」と言われたので(笑)、それで本公演にも呼んでもらえたのかな、と思ってます。私の役は、RPGで言うと…やったことないんでアレなんですけど、話しかけても役に立たない情報を繰り返す人、みたいな感じですかね? 迷路の中で、自分の持ち場しか把握できてない人です。
本公演はやはり出演者が多くて、稽古の時からちゃんと舞台を組んでるのがすごいです。私は奥まった場所を中心に動いていて、本番でもそうなりそうなので、他の人に負けないぐらい大きな声で演じたいです…幼稚園児みたいな発言ですいません(笑)。
(左より菅原永二、本多力、吉川莉早) |
菅原永二(2013/08/15) |
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僕が所属していた劇団「猫のホテル」も、エチュードから芝居を作る劇団だったんです。だからヨーロッパの稽古にもとまどいはなく、むしろ「久しぶりだな〜」という感覚です。しかも上田君はすごく指針がしっかりしていて、やみくもに演技させるわけじゃない。稽古のたびに「考えることが面白いなあ」と感心しています。今は、最初の大まかな設定から、どんどん細部が詳しくなっていってて、まさに中盤戦という感じです。
僕が演じるのは、迷路の中で迷っている貴族の1人。貴族って、ちょっと滑稽なイメージがあるんですよ。浮世離れしていて、どうでもいいことを大事にしているとか。そういう貴族なりのルールやプライドへの妙なこだわりから、バカバカしさが見えて来たらと思っています。貴族の方には悪いですけど(笑)。
(左より中川晴樹、永野宗典、菅原永二) |