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本広克行>

映画監督。「踊る大捜査線」シリーズ、「UDON」「少林少女」などで知られる日本を代表するヒットメーカー。

       

       

上田誠>

ヨーロッパ企画の代表にして脚本・演出を担当。「曲がれ!スプーン」映画版では脚本も担当した。

 

脚注

★サマータイムマシン・ブルース  2001年初演のヨーロッパ企画の舞台作品。2003年の再演を見た本広監督の熱烈なラブコールで2005年に映画化。舞台版も同時期に再演された。

 

★冬のユリゲラー 2000年初演のヨーロッパ企画の舞台作品。当初は「あの娘にサイコキネシス」として99年に上田が書き始めたが執筆が難航して一時断念。翌年、タイトルを変えて上演された。2002年、2007年にも再演されている。

 

 

 

 

 

★バック・トゥ・2000シリーズ ヨーロッパ企画が2000年、京都のキャンパス内で上演していた初期作品3作品を一挙に連続再演する企画として2007年春、大阪・東京で上演された。特に東京では5月に「苦悩のピラミッダー」が駅前劇場(約120席)、「冬のユリゲラー」がスズナリ(約150席)で同時に上演され、翌6月に「衛星都市へのサウダージ」を新宿のシアタートップス(約150席)で上演された。

 

監督×脚本家 2作目のタッグ

 

上田 本広監督とは「サマータイムマシン・ブルース★」の映画に続いて、今回の「曲がれ!スプーン」が2作目のタッグなんですが、1回目の時ってお芝居観てすぐに、結構熱心に誘ってくださって。それ以降、僕のいろんな舞台を観てもらうたびに「これは映画化じゃないの!?」みたいなことをなんかからかい半分で言う、みたいな(笑)。3回くらい同じことが続いたんで、「冬のユリゲラー★」の上演後も同じことがあって信じてなかったら、ほんとに実現したという。1回目の時はウソみたいな話で信じられなかったし、2回目は2回目で、「また言ってる」みたいな(笑)。

 

本広 業界約束(笑)。

 

上田 そう(笑)。だから2回ともあんまり現実感がないまま、進める形になってしまったんですけど。他の僕の作品もご覧になっていて、どこかこれならいける、っていうポイントはあったんでしょうか?

 

本広 これはねえ、僕、バック・トゥ・2000シリーズ★の時に再々演で観たんで、しかもヨーロッパ企画のメンバーが全員出ているわけでもないやつで。あれはトップスでしたよね?

 

上田 いや、スズナリですね。

 

本広 スズナリか。…あれ、スズナリでしたっけ!?

 

上田 トップスは「衛星都市へのサウダージ」なんでね。

 

本広 あれ、新宿で終演後にメシ食べながら、話が盛り上がったんだよ。

 

上田 …あれ、ひょっとして「〜サウダージ」を映画化したかったですか(笑)?

 

本広 そうだ!(爆)

 

上田 そうだ、じゃないでしょ(笑)。あれ、もしかして間違いました(笑)?

 

本広 僕は「〜サウダージ」の映画化は絶対あるって思ったんです。「スタートレック」だ、これは!って思って。

 

上田 って言ってましたよね。僕の記憶では「冬の〜」の終演後はゴハンとか食べに行かなかったんですよ。

 

本広 あ、行ってないですね・・・。珍しい(笑)。

 

上田 で、「〜サウダージ」の後は「これは上田くん、傑作だよ!」とか言って。

 

本広 「〜サウダージ」はねえ、泣いたよ。

 

上田 で、「これは映画化だよ!」みたいなね、真に迫る感じで、「あ、これはまたあるかな?」くらいの感じだったんですけど。フタを開けると「冬の〜」が「曲がれ!スプーン」になって・・・。

 

本広 アラ(笑)!…どっかでおかしくなったね。でもね、あの時、「冬の〜」を観て・・・。あれ、記憶がない・・・。(周りのスタッフに)飲みに行ってないよね?

 

(ヨーロッパ企画スタッフ 「でも翌日、ロボットの方から電話かかってきて、本広が観にいったほうがいいよ、って言ってるって」)

 

本広 そう、自分の会社には言ったんですけど、上田くんには会ってないんですよ。…あ、わかった。あの時、バック・トゥ・2000シリーズって、三部作だったじゃないですか。で、三部作の最後の「〜サウダージ」のときに久しぶりでみんな飲みに行って、総括の話で「〜サウダージ」すっごい良かった、「スタートレック」みたいにできるって言ったら、上田くんが「いやいや、ユリゲラーは女の子が主役でカメラにむかってスプーン握ってるようなビジュアルイメージだったんですよ」って言ってくれて、おっ、それはもしかして僕の念願の長澤企画じゃないか、って思ったんですよ。

 

上田 へー。

 

本広 そこでブッキングしたんですよ。そこまではいつもの業界お約束で(笑)。まあ、言っといてダメになることが多いんですけど、ヨーロッパ企画とやる時はなぜかいつもゴールまでたどりつけちゃうことが多いですね。だからノリとしてはヨーロッパ企画の他の作品も全部同じで、「やれるよやれるよ!」って言いながら、ゴールしないんすよ。

 

上田 なるほど、たまたま、「曲がれ!スプーン」が加速がついたと。

 

本広 そうそう、思い出した!

 

上田 思い出した、じゃないですよ(笑)。

 

本広 僕は「〜サウダージ」をグワーってやりたかった。

 

上田 「〜サウダージ」はなんか、すっごく押してくださってるなあ、とは思ってたんです。

 

本広 「〜サウダージ」はほんとに映像的な作品だなって思ったんです。「冬の〜」は昔の上演をその前にもビデオでちらっと観たことはあったんで、まあ、面白いだろうなと思ったんですけど、舞台よりは映像向きだなって思ったんですけど、超能力者の話じゃないですか、もともとは。女の子を主人公にするにしても後半にならないと登場しないし、とかいろんなこと思ったんですけど、そん時になんか、長澤まさみちゃんがやるならば、って勝手に盛り上がったんです。

 

上田 なるほど。舞台版はものすごく男っぽいというか。

 

本広 野郎たちの小突きあいというか。だから上田くんが押してきましたよ。「冬の〜」をやったほうがいいですよって。

 

上田 あー、結構、「冬の〜」の歴史を語ったかも知れませんね。

 

 

『冬のユリゲラー』 上演の歩み

 

上田 僕も逆に映画の話をいただいたときに、急浮上、みたいな感じだったんです。なるべくしてなった、っていう感じじゃなく。ただ、確かに自分の中では「サマー〜」という作品と、「冬の〜」の二つっていうのは、すっごくプロット的に強度のあるっていうか。

 

本広 観やすい、ですよね。

 

上田 いわゆる代表作っていって、差し支えないような。実際に当時、そうやって言ってたようなものなので、まあ、なるべくして、というような。「曲がれ!スプーン」にいたるまでに「あの娘にサイコキネシス」っていうタイトルで書き始めたんですけど、そのときは喫茶店モノですらなかったんですね。一番最初はテレビ番組で肯定派と否定派に分かれている人たちがいて、否定派の人たちが控室でどんどん超能力が使えるようになっていくっていう話だったんです。

 

本広 へえー(笑)。

 

上田 だから「あの娘にサイコキネシス」のチラシはそういう感じなんですよ、肯定派と否定派がにらみ合っているという。でもそれが(執筆が)弾まないことおびただしいという(笑)。

 

本広 今だったらやれるでしょ?

 

上田 今でもなかなか…。当時よりは強引に持ってくる力はついたと思うんですが、当時はやり方がわからなかったので、それから徐々に喫茶店モノにしたほうがいいのかなくらいで書いたところで時間切れになっちゃって、「あの娘にサイコキネシス」っていうタイトルでの作品は陽の目を見ないまま、「冬のユリゲラー」というタイトルで1年越しの2000年に結実したという。そのときは1年がかりで考えていたので、すごく話もしっかりとできていて、こういう超能力者がいて、こういうシーンがあってという終わりまでわりと決まった形で書き始めることができた、わりときっちり準備ができていた作品なんですね。

 

本広 一度目は到達しなくて諦めたんですね。

 

上田 まだ第4回公演とかで、簡単な”仮”の告知しか出してなかったんで、まあこれはやめようということになって、別の作品の再演に差し替えたんですけど、まあ諦め切れなくて。やっぱり場面転換もない人の出入りも少ないほぼ一幕物なので、書く上で筋力がいるんですよね。暗転が出来たり、人の出し入れができたらそこで映像でいうシーン割りみたいなことができるんですけど、映像でいう「長回し」を延々書いているようなしんどさがあって、消耗して書いたという覚えがあって。2002年やご覧になった2007年の再演でもキャラもプロットはほとんど変えてないですね。

 

本広 2007年版としては舞台美術さんが入ってるんですよね?なんか急にクオリティが…。

 

上田 そうですね。そこは大きく変化してますね(笑)。

 

本広 だから最初の感想が、すごく高級感ありましたね、って。それから客演の役者さんにも独特の雰囲気の方が多くて、イクイプメンの人羅さんとかもヨーロッパ企画にはない芝居ですもんね。マスター役の岡嶋さんとかも。そういう意味ではちょっと感じの違うプロデュース公演みたいでしたね。

 

上田 もともとの構造がしっかりあったので、そういう遊び方ができたというか。そういう意味ではある程度再演重ねて、成熟した作品でもあったので、映像に変換するときに遊びやすいというのもあったかも知れないですね。

 

本広 ちゃんとこうお話を、伏線からストーリーから起承転結がちゃんとしてますよね。それが映像の時には非常に見えますよね。

 

上田 すごく古風なウェルメイドなお話にパッケージしたほうが、寓話っぽいというか、外国の短編小説のような風合いを作りたかったので、お話のきれいな締まり方というのはやりやすかったですね。

 

 

本広流 上田流 作品の作り方

 

本広 「サマー〜」と「冬の〜」、それに「〜サウダージ」と。だから僕はヨーロッパ企画は「初期」が好き、なんだよ(笑)。

 

上田 ホンマそうですよね。初期の作品ってそういう意味では、あんまり映像とか舞台とかっていう区別がまだ自分の中でついてないところで物語から作っていって。最近のは特に舞台表現っていうところに特化して作っていってるところが多いので、また趣が違うんですよっていうことは言っておきたいところがあるんですけど(笑)。

 

本広 最近思うのは、優れた、ポテンシャルの高い作・演出家の人って、初期に書いてるもののほうが欲無く作っているから、万人が喜ぶものになってるんです。舞台芸術ではああ言われるだろうな、過去の作品と比べられるだろうな、っていう欲がいろいろ入ってくると、いろんなこと考えるじゃない。

 

上田 考えすぎちゃいますね。

 

本広 考えて、どんどんおかしな方向に行って、また戻ってきて、ってなるんだけど、物語っていうか、ストーリーテリングには戻ってこないんですよ。みんなそこでしかできないことをやろうとして、でも僕は一般の人は演劇を見慣れている方ばっかりが観ているわけじゃないから、絶対ストーリーテリングをやったほうがいいのに、って常に思ってるんですよ。今はそんなにかっちりした伏線っていうのはヨーロッパ企画ではないですもんね?

 

上田 多分、2000年頃の作品って、始まってから締めるまでがすごくキレイなんですよね。でも最近のはキレイに締まるだけでは終らないんですよ。

 

本広 そこをなんでそう思うのかが聞きたいんですよ。キレイなほうが客はいいんじゃないのって僕は思うんですよ。

 

上田 多分それは現実の世界と地続きにしたい、とかって思っていて。問題が物語の中で解決されてしまって、あー良かった、って思うより、何か見終わった後に、あーこれ自分らを取り巻く状況も一緒だなぁ、みたいな現実と物語の世界が溶け合うような、物語の中で解決されない問題が、現実の世界でもほったらかしにされているみたいなやり方をすることが多くなって。

 

本広 それは現実の中の問題提起だったり、テーマを上田くんが作品の中に入れてるってことですよね。

 

上田 そうですね。なのでお話でメデタシメデタシで完結するより…。

 

本広 それをいつから始めたのかがすごい気になって。

 

 
     

 

上田 それははっきりと「ロードランナーズ・ハイ★」っていう作品からですね。

 

本広 へぇー。

 

上田 そのとき初めて私小説的に自分らのことを書いて、それまではテーマがタイムマシンとか自分とかけ離れていたんですけど、その時は身近なゲームがテーマだったので、自分と切り離すことができず話の中でも完結させることができなくて。「サマー〜」はポップな青春モノでしたけど、あんなポップな青春、実際は送ってたわけじゃなくて、「ロード〜」は自分らのことを写して書いたら、意外とヌケが悪くなったというか、ハッピーエンドで終らないほうが腑に落ちたんですよ。そっから、つまり役者と役が一致してきてからはそうなってるかも知れないですね。

 

本広 モノを作っていっていて、いつも客を突き放すエンディングのほうがカッコいいんですよ。ここでももうおしまい、みんな死んじゃった、っていうほうがカッコいいんですけど、見ている人はたまんないくらいイヤなんですよ、多分。このバランスを上田くんどうやってとってるのかなって思うんですよ。かなりの人気劇団になってきているわけじゃないですか。

 

上田 いやいや(笑)。

 

本広 人気劇団になるとある種、政治がからんでくるじゃないですか。まあ、いろんなことを踏まえてモノを作らないといけなくなる。そういうものって、上田くんは自由にプログラムしているようでいいなと思うんですけど、いろんなものを浴びることによって自分を変えないといけないのか、まあしょうがいないよな、って作っていくのか、って。

 

上田 うーん、でもほんとにぜんぜん変わってないというか。

 

本広 ほぉ。

 

上田 自分の好みとか興味は変わってきてるんですけど、なんか最近作りにくくなったなあ、とか大きな仕事で窮屈になったなあということはありがたいことにぜんぜんなくて。

 

本広 それがいいよねえ。

 

上田 まあ、京都にいるから、いざとなりゃあ、って思っちゃうから。

 

本広 じゃあ、今後は上田くんに無茶苦茶難しい企画をぶつけるとか(笑)。

 

上田 それじゃあ京都帰ります(笑)。

 

本広 なんかでも、そこのバランスがとれていて進化していくでしょ、上田くんもヨーロッパ企画も。これはどうなっていくんだろうなって実は思っていて。

 

上田 そういう意味では監督も最初はテレビの世界から入られて、それで今は監督として自分でもプロデュースをしながら作るっていうのは変化は大きいような気がして。

 

本広 そこはだって10年以上キャリアが違うわけじゃないですか。上田くんたちと仕事して、僕はその歳の頃、どんな作品作ってたんだろうって思うと、ものすごいわかりやすいモノを作ってて、見ている人にストレスがないものを作ってる。ちゃんと切ないところは切ないって泣くし、たとえばドアをバンって開けて、そこで主人公が見たものをちゃんとおさえているんですよ。お客さんに負荷を与えない、そういう演出をしていて、それが昔、褒められてた。

 

上田 まさにセオリーに忠実たらんと。

 

本広 今でもやれるんですけど恥ずかしくてできないですね。すぐニュアンスとかテーマとか入れたくなる。で、テーマテーマっていっておかしなところにどんどん行っちゃって、なんだこれみたいの出てきて…。でも上田くんたちをある程度見てきて、好きなもの作って登っていってるじゃないですか。そうするとなんか惑わされるわけですよね。自分の信じてることをやってったほうがいいのかなーって。でも政治もあるしなー、とか。

 

上田 でもここから先がまったくわからないですからね。まさかここまで10年続くと思ってませんでしたからね、ヨーロッパ企画が、正直。大体、まわりの劇団さん見てたらやっぱり普通のペースで続けてると年齢と状況がおっつかなかったりして、そのうち活動しづらくなるんだなあって思っていて、ヨーロッパ企画も別段急いでるペースでもなかったと思ってるので、それぞれ身の振り方考えるときにヨーロッパ企画を続けていきづらいんだったら、自然に消滅するだろうなとかって思ってたら、今なお続けていけてるっていう。

 

本広 今のほうが勢いあるもんね。

 

上田 いやでもなかなか。一番ノリに乗ってたのは「サマー〜」の映画化が決まってから公開されるまで。

 

本広 (笑)それ、どういう意味?

 

上田 もう一躍スターになると思ってから(笑)。公開されたその日からもう街の歩き方が変わったくらい、誰か声かけてくるんじゃないかって。そしたら待てど暮らせどやってこないという(笑)。

 

本広 (笑)それは多分ね、後から解説すると、俺と組まなければ良かったんだよ。

 

上田 (笑)そんなことないでしょ。

 

本広 俺と組むと映画賞は獲れないから。(笑)

 

上田 いやいやいや。そういうことでなく。考えてみたら世の中に年間何百本って新作ができて、その中の1本でそんな変化って起きないのにねって、そこでハッと目が覚めて…。

 

本広 なるほど、調子に乗ってたと(笑)。

 

上田 ホントにね、そうなんですよ。

 

本広 でもあの頃に比べたら、すごいでしょ、仕事量とか。

 

上田 そんなことないです。

 

本広 東京に出てくる回数も異常に増えてるでしょ。

 

上田 作・演出家はそうなんだと思うんですけど、休みでもずっと考えてるみたいな仕事なので、そういう意味では締め切りごとは増えたかもしれないですけど。

 

 
 
★工藤静香の絵 工藤静香は描きかけのキャンパスをいくつか並べ、気のむくままに並行して描き進めている、とテレビ番組で語っていた。
 

本広 上田くんのホンの書き方は"工藤静香の絵★"と一緒でしょ(笑)?

 

上田 (笑)よくご存知で。

 

本広 僕の本とか漫画の読み方も一緒で並行読みです。

 

上田 お仕事の進め方も、この映画がちょっと止まったらこっちとか、これが動いたらこっちとか、そんなんですよね。

 

本広 もうまだ土の中に入ってるようなものをこう(こねる動作)同時にしてる。一つのものに命をかける、みたいなことができないんです。おー、俺も工藤静香だ、って思って。

 

上田 (笑)お互い工藤静香を内包しているという。

 

 

映画「曲がれ!スプーン」へ

 

上田 でも作品よりもっと引いた視点で、エンタテインメントがもっとこういう状況になればいいなあっていうイメージがまずあって、じゃあ今はどういう作品を出していったらいいのかなっていうのはあるかも知れないですね。

 

本広 まさに時期があるからね、タイミングと。いっつも思うんですけどね、ちょっと早いんです、僕。半年遅くすればいいんだなって思う。自分の作品が後から評価されたりするのがすごく悔しくて、「サマー〜」なんていい例ですよ。興行成績、僕の作品で一番悪いんですよ(笑)。でも今や、あれに出演してた人、みんな売れてるわけじゃないですか。

 

上田 ほんとそうですよ。すごいですよね。

 

本広 それ考えたら、あれも1年早いんですよね。ちょっと待てば。

 

上田 これ聞きたかったんですけど、今回の「曲がれ!スプーン」、タイムリーなんですか?

 

本広 これはね、えっとね、…いい感じだと思いますよ。

 

上田 (笑)ほんとですか。早くないですか? あの役者の顔ぶれとか。

 

本広 でもまあ、物語は「サマー〜」よりも判りやすいんですよ。起承転結がはっきりしてて、感動のポイントがあって、笑うところもちゃんとワッとあるんですよ。サマー〜だとクスクスなんですけど。

 

上田 この前、試写の反応が?

 

本広 うん、わりと良くて。そういう意味では物語の構造と客の反応はすごくわかりやすい。出てる人がそこできらびやかな、例えば名前の売れた芸人さんとか使うと、それはもうなんかお腹いっぱいな感じの映画になるわけですよ。誰か知らない人のほうが、…その人が上手ければいいんですよ。この間、テレビで予告が流れて諏訪くんがウーッって(念力をこめて)やってて、オッって、なんかびっくりしますね。

 

上田 あー、誰なんだ、と。

 

本広 でっかい画面に諏訪くんが、しかもビール、バーンと破裂させて。面白そうでしょ、これって(笑)。冷静に思いましたよ。

 

上田 この派手なギミックを与えられている役者は誰なんだ?、と(笑)。

 

本広 僕的にはバランスいいなーと。で、映画好きな人ってあんまりメジャーな人がいっぱい出てると来ないんですよね。

 

上田 へえー。

 

本広 どっちかっていうと、誰なんだろう、くらいのほうが。洋画とか好きな人って役者の名前で選ばないじゃないですか。長澤まさみと志賀さんがいればいいくらいにしといて、あとは認知度がなくてもお芝居もウマい役者さん、っていうのが僕の今回の「新しさ」だと。

 

上田 まあ、見てもらえば皆さんの実力は、ねえ。「冬の〜」は最初はきれいなパッケージでって始まった作品だったんですけど、映画「曲がれ!スプーン」では僕も書き方変えたし、きれいに終ってるというよりはちょっと枠からはみ出すような。不遇な超能力者がそこから一歩飛び出したいっていう願望というか、意思が見え隠れするようなタイトルにも変えたし、外の世界に広がっていくような、ちょっと発展的な映画になってますよね。そういう意味では「サマー〜」の映画化と比べて、だいぶん舞台版と映画版が違ってきてるかも知れないですね。

 

本広 そうですね。そういわれると、やってることは同じかも知れないですけど、

 

上田 中身のパーツパーツは一緒なんですよ。でも見終わった後の印象は…。

 

本広 確かに違うかも知れないですね。どう考えても映像のほうが有利ですよね。

 

上田 あ、へー。

 

本広 僕はやっぱり舞台でストップモーションとかやっても、こうやってみんな自分で止まるじゃないですか。

 

上田 いや、それをやってたんですけど(笑)。

 

本広 そういう面白さ、じゃないですか。映像だとホントに止める、というのを合成で作ったりとか。で、止めるというのを見せるためにはその前に動いてるものを見せとかなきゃとか、いろいろやるんですけど、ああいうのってオッ、ってみんな思ってくれますよね。でも舞台版だとみんなでカッと止まって。役者止まってるだけやん、って思うだけじゃないですか。だからやっぱり見え方が違うんですよ。

 

上田 僕は映画のシナリオも書かせてもらったんで、絶対舞台ではできないようなやり方を最大限生かしてもみようかなというところがあって、次にまた舞台版をやるって時に、それに負けないようにどういうふうに振り戻そうかなっていうのがあって。

 

本広 僕は映像をやってて引っかかったのは、舞台では面白かったけど、映像にしたらヤバいな、っていうのがあって。

 

上田 あー、こっちとは逆にね。

 

本広 それを途中から発見し始めて。時間止めるのは面白いんだけど、止めたときに周りの人はCGで止まってるとしても、その人は何をやったらいいのかっていうのがいろんなこと考えてるうちに時間がなくなってきて、じゃあその前に「キスしてきてくださいよ」っていうセリフがあるから、ほんとにキスしようとすればいいんだと思って。台本にはないじゃないですか、あのシーンは。

 

上田 ないですないです。

 

本広 舞台版はあそこ絶対面白いけど、映像版はヤバイっていうのがずいぶんあって。見せないのが面白いっていうのもあるし、見せすぎちゃったらそんなところまで描かなくても、っていうときもあるし。

 

上田 舞台版は想像させて、っていうシーンがたくさんありますもんね。書き方としてはセレクティブに、というか、ここでカットバック入れてもいいし、言葉だけでやってもらってもいいですよというような書き方で、後で取捨選択ができるような。

 

 

上田 逆に舞台版はどう思いますか? 「サマー〜」のときよりも、初演から時間が経ってるんで、原作があって舞台になるっていうのと、僕らもまた舞台を作りなおすっていうので、原作が遠い分、距離も遠くなっているっていうか、舞台版をどっちに振ろうかなっていうのが今、あるんです。映画はだいぶんガーリーな感じになってるじゃないですか。主人公も女の子で。かわいらしい映画版に対して、どういうアプローチでいこうかなという。

 

本広 これは難しいね。

 

上田 なんとなく予感はあるんですよ。多分、男っぽさというか、男のまぬけさをちゃんと描ければ。

 

本広 ヨーロッパ企画のメンバーで。男っぽいものを目指してるんだけど、どうもなりきれないくらいの感じになるんだろうね、ヨーロッパ企画は。

 

上田 そうですね。ちょっとダンディな、ダンディズム(笑)。多分、無理ですね(笑)。

 

本広 多分無理、くらいのユルさがいいんだろうね。なんかそれが面白いんだなって。楽しみですね。

 

上田 ドキドキしてるんですよ。この作品って緊張するんですよ。場面転換があると役者も演出もラクなんですけど、これ、ずっとハイテンションが続くから、途中で切れないんですよ。

 

本広 ベクトルもガンガン変わるしね。確かに映画でやってみても、今の一言でばっとベクトル変わるっていう瞬間あるもんね。あれ見逃したらやべえなあ、って。僕はリハーサルやらせてもらったし、上手い人ばかりでラクだったんですけど。映画も舞台もどうなるか楽しみですね。

 

上田 山脇さんも長澤さんとはぜんぜん違うタイプですからね。一度、映画版書くときにスライドする作業があった後なので。山脇さんは当たりが強いタイプで、長澤さんは荷物持ってフラフラして入ってくるように書いたので。

 

本広 もともとはエスパーたちがウダウダ喋ってるのが面白いと思ったわけだから、やっぱり舞台はあれがメインで来たほうが面白いですよ。映画版は長澤さんとエスパーたちって作りにしたから。でも舞台はここを信じている、ってやったほうがいいですよ。

 

上田 こないだ会議したんですよ。映画はガーリー路線を狙っている、と。じゃあ舞台版は逆にしましょうよって。じゃあどんな言葉がいいかなって。それこそビターとか、ストロングコーヒーとか。煙たい感じとか、あんまり明るくならないんですよね(笑)。

 

本広 苦い感じ。

 

上田 そうなんですよね。で、映画版と違うのはいいんですが、明るいと暗いみたいになると嫌なんで。

 

本広 損するよね(笑)。

 

上田 (笑)損するんで。

 

本広 でも出てる人は中川くんとか諏訪くんとか映画と一緒でしょ?

 

上田 一緒なんです。舞台版は喫茶店から始まる物語で、それを探しに来る女性目線ではなく、超能力を持った日陰の男たちを描く話ではあるので。そこのダンディズムじゃないですけど、美意識みたいなことを、いかにポップに描くかっていう。そういう意味ではとてもキュッとまとまっていて、物語は力強くはなると思います。

 

本広 エネルギーを感じられたほうがいいと思う。

 

上田 そういう意味ではホントにストロングコーヒーです。ブラックコーヒー。…ブラックコーヒー飲まないな…(笑)。

 

本広 いぶし銀みたいな。

 

上田 なんか広告的な戦略としてコーヒーに例えようとしてるんですけど、何もうまいこといかないっていう(笑)。

 

本広 あれですよ、濃い粉コーヒーなんだけど練乳が入ってるみたいな。

 

上田 そうなんですよ、もともと今までの公演でも、コーヒーとミルクが混ざり合うように、エスパーと普通の人が混ざり合うイメージ、…召し上がれ? みたいな(笑)。

 

本広 (笑)召し上がれ感? それは忘れちゃダメですよ。映画版はもうちょっとフレンチな感じでね。ラテとか、カプチーノとか(笑)。

 

上田 ラテかぁ(笑)。ラテとオレってどう違うんでしたっけ?

 

(その場にいたカメラマンより「オレがミルクで、ラテはあわ立てたミルクです」)

 

本広 そうだそうだ。映画版はラテだ。

 

上田 (笑)ラテであれ、と。

 

本広 ぽわーんとしてるから、みんな。

 

上田 はあー。ラテっていい感じですね。あー、じゃあ映画がカフェのラテだとしたら、舞台は喫茶店のコーヒーみたいな。

 

本広 おっ、じゃあちょっと渋めの喫茶店の、昔からあるような。

 

上田 と言っておけば、うまいこと記事上まとまるんじゃないかと。

 

本広 あれ、俺あんまりピンと来なかったよ(笑)。

 

上田 あれ(笑)、なんとなくわかるでしょ。

 

本広 シガーとコーヒーみたいなそういう感じですか。映画はカフェラテとかで。

 

上田 …カフェラテのほうが、なんかいい感じじゃないですか(笑)。そこも微妙ですね、喫茶店とカフェも違いますしね。映画版って、お店の内装もカフェって感じで。そういう意味では、舞台版はもうちょっと生活臭というか。喫茶店臭というか。どう違うんでしょうね?

 

本広 やっぱり置いてあるものとか、かなりかわいくしてもらったんで。ドイツっぽいっていうか。かっちりしたデザインの道具が多いのに。色使いもわざとパステルにしてもらったり。カフェもね、一緒にいっぱい見に行きましたよね。京都だと、あのおばあちゃんが一人でやってる…。

 

上田 「静香」。

 

本広 あそこはかなり良かったですね。

 

上田 かわいらしい雰囲気で。

 

本広 出てくるコーヒーも昔ながらの感じで美味しくて。ちょっととんがってる人だと、カフェ好きの女性と話してると、あ、僕、京都の「静香」行ってますよ、なんていうと、あ、ホントですかぁーなんて、そこでちょっとキャッチーだったり(笑)。あ、これでいいんだぁみたいな(笑)。女の人ってそういう行ったお店を全部覚えてるんですよね。あのソワレってブルーのライトの店、あそこの話とかしたら、監督そこ知ってるんですか! みたいな感じで。

 

上田 ええとこ、全部押さえてるみたいな感じで。

 

本広 京都よ、ありがとうって。たった1日のロケハンでそんなに知っちゃったっていう。

 

 
 
★チロル 上田の実家近くにある喫茶店。この店と近くにある神泉苑という池ををモデルに「曲がれ!スプーン」は書かれており、舞台「曲がれ!スプーン」のチラシ撮影でのロケにも使われている。
 

上田 こっちは「チロル★」で行くしかないですからね。壁がヤニで焼けた(笑)。

 

本広 でもあそこは大事なところですもんね。あそこを舞台にして書いて。近くの池、うどん食ったところの池も使って。

 

上田 あ、そうですそうです。あの界隈で。

 

本広 もう、あそこのうどん、お父さんに食べさせてもらったけど、美味しかったっすよ。

 

上田 今回は特にもう少し濃いものを感じてもらえたらなと思ってるんです。キャストも前に見てもらった2007年はヨーロッパ企画メンバーではない人も演じてるんですけど、今回は血の濃い、現在のヨーロッパ企画メンバーだけしか出ないという。せっかくなんだからもっと派手にプロデュースっぽくやればいいのに、意外とメンバーでがっちり固めてしまったっていうような。

 

本広 マスターは?

 

上田 角田さんですね。

 

本広 おー。もう少し歳が(役に)寄ってくる分、ちょっと特徴が出てきますよね。

 

上田 メンバーもちょうど今がいいくらいの時期で。だって初演当時、20歳くらいであの芝居やってますから、ぜんぜん渋みが出なかったんですよね。で、舞台も酒井が作ったベニア板の薄いやつだし…。

 

本広 ちょっと当時、無理してる感じだったんだろうね。

 

上田 今、ようやく歳相応のことができるかなっていう時期でもあって。

 

本広 いろいろあーだこーだ説明しなくても、いでたちでわかるよって。

 

上田 いでたちでね。無理くりスーツ着なくても(笑)。

 

本広 昔のはそうだもんね。無理くり。でも歳相応になってきたし、ここにきてやっとできるビターな芝居を。

 

上田 もういでたちでいく、っていう。

 

本広 もう喋らずともわかるだろうという感じですわな。喋らずとも、俺はマスターだ、と。

 

上田 エプロンすらしなくても。

 

本広 (笑)それは…わかるかなぁ(笑)。駅前劇場とかスズナリだったら、そこでやってる秘め事的なね、楽しめるというか。でも今回、東京は紀伊國屋ホールだよ。俺、東京出てきて始めてみたのが紀伊國屋で、その時、一番後ろの席で、うわースゲー東京、って思ったもん。そこから観劇人生が始まったんだもん。

 

上田 紀伊國屋は内装が古風な作りだから、古い感じの喫茶店とかは合うと思うんですよ。

 

本広 じゃあロビーには喫茶店とか出るんですかね。

 

上田 さんざん喫茶店って言ってもらってますけど、残念ながら劇中に出てくる店の名前は「カフェ・ド・念力」っていう(笑)。

 

本広 純喫茶じゃなかったんだ(笑)。

(2009年7月・東京にて)

撮影:星野麻美